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札幌高等裁判所 昭和63年(ネ)194号 判決 1993年5月19日

控訴人(附帯被控訴人)

(以下「控訴人」という。)

右代表者法務大臣

後藤田正晴

右指定代理人

新庄一郎

外四名

被控訴人(附帯控訴人)

太田勝久

(以下「被控訴人」という。)

右訴訟代理人弁護士

浅野元広

浅水正

岩井淳佳

市川茂樹

猪狩康代

伊東秀子

市川守弘

大島治一郎

小田勝

亀石岬

荒谷一衛

浅井俊雄

五十嵐義三

猪狩久一

伊藤誠一

伊藤隆道

上田文雄

尾崎定幸

太田賢二

川村俊記

阿部勝人

猪股貞雄

岩本勝彦

伊藤信賢

石田明義

石黒敏洋

江本秀春

小黒芳朗

尾崎祐一

片岡清三

岸田昌洋

後藤徹

小坂祥司

坂原正治

佐藤哲之

笹森学

品川吉正

関口正雄

高橋秀夫

高嶋智

高崎暢

菊池克保

小門立

佐藤文彦

佐藤允

坂本彰

佐藤博文

鈴木悦郎

田中健二

田中敏滋

高﨑良一

高橋剛

黒木俊郎

小寺正史

佐藤義雄

斎藤正道

澤田昌廣

島津宏興

末神裕昭

田中宏

武田誠章

高崎裕子

武部悟

田中貴文

中島一郎

中田克巳

馬場正昭

橋本智

廣川清英

藤田美津夫

丸岡敏

松浦正典

村松弘康

山本穫

高橋智

中村仁

中村隆

馬場政道

廣谷陸男

藤本昭夫

藤本明

牧口準市

三津橋彬

向井諭

山本隼雄

千葉悟

中山博之

野田信彦

原敦子

廣岡得一郎

藤内博

本城孝一

馬杉栄一

村岡啓一

門間晟

山中善夫

矢吹徹雄

山本行雄

米屋佳史

小笠原義正

嶋田敬昌

前田健三

山﨑英二

菅沼和歌子

吉成重善

三上雅道

角山正

山崎俊彦

山﨑博

渡辺英一

大巻忠一

菅原憲夫

室田則之

岡部信之

須田保幸

米田和正

安藤和平

石神均

八幡敬一

吉川正也

北潟谷仁

斉藤了一

藤原秀樹

森越清彦

清水一史

八重樫和裕

小野塚聰

大堀有介

菅原一郎

浜田敏

市川清文

小林美智子

内田雅敏

竹之内明

大久保和明

上野勝

松原脩雄

渡辺伸二

島方時夫

松本修二

酒井紳一

幣原廣

柳沼八郎

小泉征一郎

森卓爾

赤松範夫

杉山彬

伊神喜弘

佐々木斉

大迫唯志

桑城秀樹

関谷信夫

高野範城

八塩弘二

杉野修平

佐久間哲雄

若松芳也

中道武美

浅井正

高橋敬幸

秋山正行

鍬田萬喜雄

塩田直司

上田国広

濱田英敏

美奈川成章

川村重春

主文

本件控訴及び附帯控訴をいずれも棄却する。

控訴費用は控訴人の、附帯控訴費用は被控訴人の各負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  控訴事件について

(一) 原判決中、控訴人敗訴部分を取り消す。

(二) 被控訴人の請求を棄却する。

(三) 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

2  附帯控訴事件について

(一) 附帯控訴を棄却する。

(二) 附帯控訴費用は被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

1  控訴事件について

(一) 本件控訴を棄却する。

(二) 控訴費用は控訴人の負担とする。

2  附帯控訴事件について

(一) 原判決中、被控訴人敗訴部分を取り消す。

(二) 控訴人は、被控訴人に対し、更に四〇万円及びこれに対する昭和五八年一二月三日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え(被控訴人は、当審において、附帯請求の起算日を従前の昭和五八年一一月二七日から同年一二月三日に減縮した。)。

(三) 訴訟費用は、第一、二審とも控訴人の負担とする。

第二  当事者の主張

当事者双方の主張は、次のとおり付加するほか、原判決の事実摘示に記載のとおりであるから、これを引用する(ただし、原判決二枚目裏七行目の「被疑者甲野の」を「被疑者甲野についてはその」に改める。)。

一  控訴人の主張

1  国家賠償法における違法性の判断基準及び検察官Aによる接見指定権の行使等の適法性について

(一) 検察官の接見指定権の行使が国家賠償法上違法とされるためには、単に刑訴法三九条三項に違背するだけでは足りず、接見指定権の行使に著しく合理性を欠くことが明らかであること、換言すれば、通常の検察官であれば、当時の状況下における判断として何人も当該行為に出なかったであろうと認めるに足りる事情のあることが必要と解するのが相当である。

国家賠償法一条一項にいう「違法」とは、他人に損害を加えることが法の許容するところであるかどうかという見地からする行為規範性であり、この行為規範性は処分ないし法的効力発生要件とは性質を異にするものである。

ところで、刑訴法三九条三項は、「捜査のため必要があるとき」に検察官等が接見指定権を行使できるとしているが、右の「捜査のため必要があるとき」とは、捜査機関が現に被疑者を取調べ中であるとか、実況見分、検証等に立ち会わせる必要がある場合に限られるものではなく、当該事件の性質、態様、捜査の進行状況、捜査計画、弁護活動の態様等諸般の事情を綜合的に勘案し、弁護人等との接見が直ちに行われるならば、捜査機関が現に実施し、又は今後実施すべき捜査手段との関連で、事案の真相解明を目的とする捜査の遂行に支障が生ずる恐れが顕著に認められる場合を含むものと解すべきである。

すなわち、検察官等が接見指定権を行使するかどうか、行使する場合にいかなる接見指定をするかの判断は法律上の価値判断である。しかも、この判断にあたっては、右のような諸般の事情を総合勘案して、捜査の遂行に支障を生ずる恐れが顕著かどうかを検討しなければならないが、このような検討は、検察官等に対し、日々流動する捜査の過程において、極めて限られた短時間のうちに、捜査の遂行に支障を生ずる恐れという将来の予測を含む事柄の検討を要求するものである。

したがって、その検討の結果得られる判断は、個々の検察官等によってそれぞれの法律上の判断にある程度の差異が生ずることは当然であり、右差異をもって、一方を誤りであると即断することはできない。そして、国家賠償法上の違法を問題とするときは、右のように判断が異なりうることを当然の前提とした上、当該判断がその許容範囲を逸脱した場合、すなわち合理性を欠くことが明らかである場合に初めて違法として評価されるべきものである。そして、右の違法判断においては、裁判所は、捜査官と同一の立場から右の要件の有無を判断すべきではなく、検察官等の判断が著しく合理性を欠いていることが明らかであるか否かを審理して判断するべきものである。

また、接見指定権の行使の方法については、刑訴法に何ら定められていないのであるから、検察官等指定権者の合理的な裁量に委ねられているものと解すべきであり、接見指定権の行使の方法に関する検察官等の判断についても右と同様に考えるべきである。

(二) 右の観点から本件をみるならば、検察官Aが主任検察官を務めた本件贈賄被疑事件について同検察官が接見指定権を行使した二一日から一二月三日までの間については、弁護人等と被疑者との接見が直ちに認められたならば捜査の遂行に支障が生ずる恐れが顕著に認められ、接見指定権の行使の要件を具備していたものであることが明らかである。

すなわち、本件のような贈収賄事件に対する捜査においては、犯行の日時場所、金品授受等の内容と状況、職務権限との関連性等の構成要件事実はもちろんのこと、贈賄側と収賄側との平素の癒着状況その他の諸事情を全面的に解明する必要があり、これらの捜査を尽くした上でなければ起訴すべきか否かなどの終局処分を決することはできない。また、贈収賄事犯は、その性質上、関係者等の周到な準備に基づきいわば密室において実行されるため、人証や物証の収集が極めて困難であり、しかも犯行から相当経過した後に発覚することが多いため、関係者の記憶も曖昧になっているなど、捜査を困難にする事情が多い。更に、本件被疑事件においては、捜査の進展状況如何により、札幌市政に深刻な影響を及ぼすことは必至で、社会的影響も重大であり、一方、組合の最高幹部二名が起訴され有罪判決が下される事態になれば、組合としては札幌市の清掃事業に関する指名業者の資格が停止されるか又は取り消される可能性が大であって、事件の帰趨が組合の経営及び存続に重大な影響をもたらすことが明らかであった。そのため、本件被疑事件は、被疑者両名において、互いに、あるいは組合の関係者等と相通じて罪証の湮滅を図る可能性が大きいと認められる典型的な事案であり、客観的にもその可能性が明らかであったものである。現に、被疑者両名は、他の同業者による同一の札幌市職員への贈賄事実が発覚し、同業者や右札幌市職員らが逮捕、勾留された先行事件の発生を知るや、賄賂として供与したゴルフ道具一式について単に貸し与えたに過ぎないことにする旨の口裏合わせをし、また被疑者甲野は、直ちに組合の理事会を招集して、右弁解が入れられなかったときには、被疑者乙野が単独で、あるいは同人が組合専務理事本間善一と共謀の上贈賄したもので、被疑者甲野は関与していないことにするとの対応策を決めるとともに、証拠書類の一部を廃棄するなどの証拠湮滅工作を行っていた。そして、本件犯行に際しては、予め、贈賄に係るゴルフ道具一式の原資について、福利厚生費として架空の経費を計上して捻出し、その旨の帳簿処理を行い、供与した現金二〇万円の原資についても、いわゆる簿外資金から出していたのであって、捜査機関において組合の帳簿書類を押収して検討しても贈賄資金の流れが解明できないような巧妙な隠蔽工作が講じられていたのである。

このような本件贈賄事件における事案の性質に鑑みると、被疑者両名の逮捕時点において、被疑者らが何らかの罪証湮滅工作に及んでいることは容易に推測し得たところであり、更に、勾留後においても、被疑者両名が互いに、あるいは組合の関係者と通謀して罪証湮滅を図る恐れがあることは十分に予測されたものである。

以上に述べた諸事情から、本件被疑事件の主任検察官であるAとしては、収賄者はもとより、少なくとも組合関係者に対する取調べを終えるまでは、被疑者両名と弁護人等との接見についても、捜査の必要性との調整を図るため接見指定権を行使する必要があると判断したものであって、この判断が合理的なものであったことは明らかである。

(三) 更に、本件における検察官Aの接見指定権の行使及びこれに関連する措置が適法であったことについて、具体的にみるならば次のとおりである。

(1) 二一日の接見指定権の行使について

被疑者両名は、一七日に逮捕され、一九日に勾留されたものであるが、捜査機関としては、本件被疑事件の罪質等から被疑者両名の取調べに重点を置かざるをえず、しかも早期に被疑者両名から具体的かつ詳細な供述を得て裏付け捜査を尽くす必要があったのであり、現に、被疑者らが、二二日から一二月一日までの間、原判決添付の別表に記載されているとおり、土曜、日曜、祝日を除いて、午前八時三〇分から午前九時三〇分ころまでの時間に取調べのため出監している事実に照らしても、特に捜査初期の段階である勾留開始後の数日間は、綿密な予定に従い、被疑者両名に対する本格的な取調べを、時間の許す限り行う必要があったものである。そのため、捜査官側は、勾留三日目の二一日にも午前九時三〇分ころまでには被疑者両名に対する取調べを開始する予定になっていたが、その直前の午前九時ころ、留置管理者に対し被控訴人から被疑者両名との接見の申出がなされたため、捜査官側は、これに対応し、取調べ開始時刻を遅らせることにしたものである。もっとも、被控訴人と被疑者両名との接見は午前九時三〇分ころ終了したため、被疑者両名においては、取調べのための出監までに更に二〇分間在監することになったが、これは、接見終了後の入監や取調べのための出監に要する連絡、点呼、記帳等の手続きに相応の時間を要したことや、被控訴人に対し指定された時間が各被疑者につき一五分間であったのに、被控訴人が接見を早めに切り上げたため、捜査官が取調べのための出監を要請するまでの間に空白が生じたこと等も影響しているのであって、右のような時間的間隔の存在をもって直ちにその時間帯に取調べの必要がなかったなどと認めるのは相当ではない。

当日の右のような経過からみるならば、被控訴人から接見の申出があった時点においては、検察官Aにより接見の日時と時間を指定する必要があったことが明らかである。

また、検察官Aは、被控訴人の右の接見の申出に対し、間もなく取調べを開始する時間ではあったが、初回の、弁護人ないし弁護人になろうとする者と被疑者両名との接見が、弁護人選任のためのものであって、その必要性が大きいことなどを考慮し、各被疑者につき一五分ずつの接見を指定したものである。

したがって、検察官Aの右接見指定権の行使には何らの違法もないといわざるをえない。

(2) 二二日の接見申出に対する措置について

被控訴人が同日午後一時ころ申し出た接見希望時刻は、同日夕方であり、具体的には午後五時過ぎを希望していたものである。しかしながら、そのころは、同日午前からの被疑者らに対する取調べがなお継続している予定であり、現に、被疑者甲野は午後五時四五分まで、被疑者乙野は午後五時〇九分まで取調べを受けていたものである。しかも、被控訴人の希望時刻に従えば、その接見は、午後五時一五分までの監獄の執務時間を過ぎたものとなる恐れが強いものであったことが明らかである。

したがって、被控訴人の右接見の申出については、前記のような捜査の必要性があってのみならず、被疑者両名の取調べそのものを行う必要があった上、特段の事情もなく執務時間外にわたる接見を希望するものとして、これを認める余地はなかったものである。

(3) 二五日の経過について

検察官Aが被控訴人からの申出に基づいて二一日に指定した接見日時は、「同月二五日午前一〇時三〇分から一一時三〇分までの間、各被疑者につき一五分間」であったものである。仮に、これが被控訴人の主張するとおり同日午後二時であってとしても、同時刻に留置場を訪れた被控訴人に対し、検察官Aが「指定時刻は午前一一時であった。」と述べて、同日午後二時からの接見を認めなかったのは、同検察官において先に指定した日時を誤解していたためにほかならず、しかも、かかる誤解が生じた最大の原因は、同検察官の要請にもかかわらず、また過大な負担を強いられる訳でもないのに、被控訴人において具体的指定書の受領、持参に応じなかったことにある。そして、後記のとおり、検察官等が接見指定権を行使するにあたって弁護人等に対し具体的指定書の受領、持参を要求することは原則として適法と解されるのであり、そうだとすると、弁護人等が検察官等の要請にもかかわらず、具体的指定書の受領、持参を拒否した場合には、具体的指定書が持参されていないことを理由に接見を拒否することも許されるものというべきである。また、同日午後二時ころにおいては、被疑者らについて取調中であり、それが終日予定されていたため、検察官Aは、被控訴人に対し次の接見希望日を問い直したが、被控訴人が立腹して電話を切ったことから、当日は接見の日時に関する協議もできないまま終わったものである。したがって、検察官Aは、被控訴人に対し不当に接見指定権の行使を怠ったものではない。

(4) 二六日の接見指定権の行使について

二六日は土曜日であり、被控訴人が接見申出をした時刻は執務時間外であったから、被控訴人の右申出は原則として認められないものというべきであるところ、被控訴人が接見を要するとした各事情は、すべて前日に、被控訴人が自己の考えに固執する余り、具体的指定書の受領、持参を一方的に拒否したことに起因しているものであるから、あえて被控訴人のために執務時間外の接見を認めなければならない特段の事情はなかったことが明らかである。それにもかかわらず、検察官Aは、当日、被控訴人の右申出に従い接見を認めたのであるから、その措置に何らの違法はない。

(5) 二八日の接見指定権の行使について

接見指定権の行使の要件である刑訴法三九条三項の「捜査のため必要があるとき」とは、前記(一)のとおり、捜査の遂行に支障が生ずる恐れが顕著に認められる場合と解されるから、接見申出の時を基準として、弁護人等と被疑者とが無制限、無制約に接見することにより捜査に著しい支障が生ずる恐れがあるか否かを考慮し、その結果によって捜査に具体的支障がない日時を指定するのは当然のことである。

そして、本件においては、前記(二)の諸事情からして、被疑者両名間及び被疑者らと組合関係者等との間の連絡を絶ったまま、被疑者両名や組合関係者等の参考人の取調べをすべて終え、被疑者両名の供述内容を裏付け又は弾劾する捜査を尽くすまでは、捜査の進展状況等に鑑み接見指定権を行使しなければならない場合も当然にありえたものというべきであり、二八日の時点では、なお被疑者両名につき接見指定権を行使すべき必要性が存続していたものである。しかも、当時は、被疑者らに対する検察官の取調べが集中的に行われている段階であったから、検察官神垣が諸般の事情を考慮して、被控訴人の接見について三〇日午後一時に各二〇分と指定することには十分な理由があったものというべきである。

したがって、検察官Aが被控訴人に対し右のような接見を指定したことには何らの違法もないというべきである。

(6) 一二月三日の接見指定について

本件被疑事件の内容、捜査の進展状況、弁護活動の態様等、諸般の事情を総合的に勘案するならば、同日の時点ではなお自由な接見を規制しなければならない捜査の必要性があったのであるから、接見指定権の行使の要件は存在していたものというべきである。そして、検察官Aが、接見の時間を、二八日の際と同様の事情により各一五分間と制限したことは、接見指定権を付与された検察官の合理的裁量の範囲内であるから、違法な点はない。

2  法律解釈の対立と違法性又は故意過失について

公務員の公務執行に関し、その指針となるべき関係法律の解釈に対立があり、そのいずれについても相当の根拠が認められる場合には、前記のとおり国家賠償法一条一項の違法性があくまで行為規範違反であり、効力要件違反でないことからすると、当該公務員が対立するいずれの見解に従って公務を執行したとしても、国家賠償法上の違法又は過失はないというべきである。

ところで、刑訴法三九条三項にいう「捜査のため必要があるとき」の意義については、最高裁判所昭和五三年七月一〇日判決が存在するが、それがいわゆる限定説を採用したものか否かについては争いがあり、本件における検察官Aの接見指定がなされた昭和五八年一一月当時においても、同項の「捜査のため必要があるとき」の解釈を巡って、限定説(物理的限定説)と非限定説(捜査全般説)がそれぞれ相当の根拠をもって鋭く対立していたものである。したがって、本件は、検察官Aが、従前からの検察実務に従い、非限定説の立場に立って接見指定権を行使したに過ぎないものであるから、その行為に違法性がないことはもちろん、過失を認めることもできないというべきである。

3  具体的指定書の持参要求について

前記のとおり、捜査機関が接見指定権を行使するにあたっての方式の選択は、捜査機関の合理的な裁量に委ねられているものと解される。そして、書面による指定権の行使については原判決判示のような数々の利点があり、かつ、一般に弁護士事務所の所在地が検察庁に近接してること等からみるならば、書面による接見指定が弁護人等に過大な負担を強いるものとはいえない。したがって、捜査機関が、接見指定権を行使するにあたって、弁護人等に具体的指定書の受領、持参を要求することは、原則として適法というべきであり、本件における検察官神垣の具体的指定書の交付又はその受領等の要求も何ら違法なものではない。

4  一般的指定を取り消す準抗告決定の効力について

接見についての一般的指定書は、検察官が具体的指定書を行使する事件であることを監獄の長に対し予め通知する内部的な事務連絡文書に止まるものであり、右文書の作成、交付が国家賠償法上はもちろん、刑訴法上も違法な処分といえないことは明らかである。したがって、一般的指定に対し準抗告がなされ、そこにおいて一般的指定が処分として取り消す旨の決定がなされたとしても、検察官等による刑訴法三九条三項に基づく具体的指定権の行使との関係では法律上格別意味のないものといわざるをえない。

そのため、検察官Aが、本件準抗告決定がなされた後に、捜査官を通じて監獄職員に対し具体的指定書により接見指定をすることを通知したことについても、当然の事柄を注意的に連絡したものとして、何らの違法な点はない。

5  損害について

刑訴法三九条一項は、弁護人等の固有権として、被疑者との接見交通権を規定するものの、右の権利は、被疑者の防御権の行使を補助するために、刑事手続上検察官と相対立する立場に立つ機関ともいうべき弁護人等に対し、手続上の権利として付与されたものであり、弁護人等の地位に就いた弁護士たる個人に対し、被疑者の権利擁護とは関係なく与えられたものではない。したがって、刑事手続上の機関ともいうべき弁護人等がこのような刑事手続上の権利の行使を妨害されたとしても、そのために生じた損害を弁護士たる個人が賠償請求できるいわれはない。

また、本件における主な争点は、刑訴法三九条の解釈に関連するものであるが、その解釈の適否等については、本来、刑訴法上の不服申立手段である準抗告の申立てによって解決が図られれば足り、そうすることが弁護人としての当然の職責であるから、それに要する諸々の負担は、弁護人としての職務上通常の範囲内のものというべきである。したがって、後に裁判所によって被控訴人の解釈が正当であると評価されたとしても、被控訴人について、国家賠償法に基づき金銭で賠償すべき損害が生じているとはいえない。

しかも、本件は、被控訴人の接見申出に基づいて、その申出に近い時期に接見の指定がなされているのであるから、この点からも国家賠償法上論ずべき損害の発生を認め難いというべきである。

更に、起訴前の弁護活動も、結局は起訴後の弁護活動の前提としてその中で評価されるべきものと考えられるところ、被控訴人の主張する本件接見妨害が起訴後の弁護活動に影響を与えたとは到底解し難く、この見地からも被控訴人には損害が生じていないというべきである。

二  被控訴人の主張

1  被控訴人が、二一日以降、被疑者乙野の弁護人となろうとする者であったことについて

(一) 刑訴法三九条一項の「弁護人を選任することができる者の依頼により弁護人となろうとする者」とは、当該弁護士に弁護人になろうとする意思があり、選任権者において当該弁護士を選任する可能性があれば足り、必ずしも同法三〇条所定の者から依頼、委嘱を受けていなくともよいと解すべきである。

その理由は、第一に、同法三九条一項に定める接見交通権とは、身体を拘束された被疑者が弁護人の援助を求めるための刑事手続上最も重要な基本的権利である。そして、右の援助とは、具体的には、弁護士による捜査機関の違法捜査の監視、黙秘権の侵害の防止、被疑者にとっての有利な証拠の収集と不利な証拠に対する防御の準備等を内容とするものである。このような接見交通権の重要性に鑑みるならば、被疑者が弁護人を選任できる機会をできるだけ多くする必要があり、同法三九条一項を解釈する際にはこのような観点を重視すべきである。

第二に、同法三〇条二項は、弁護人選任権者として近親者以外の者を規定していない。そのため、同法三九条一項の「弁護人となろうとする者」を同法三〇条所定の者から依頼、委嘱を受けた者に限るとするならば、近親者が被疑者の逮捕、勾留の事実を知らないか、近親者が遠方に居住していること等により弁護人になろうとする弁護士と連絡が取れない場合等には、被疑者が弁護人の援助を受けることができないことになるが、このような結論は接見交通権の重要性に鑑みて極めて不当である。したがって、被疑者の勤務先の上司や友人等も弁護士に弁護人になることを依頼できるよう同法三九条一項を解釈すべきである。

第三に、刑訴法三九条一項における「弁護人を選任することができる者の依頼により」を、文理上、「依頼を受けたことにより」と解すべき理由はなく、それを「依頼があれば」と解するほうが文理に適い、現在における弁護人の選任の実態にも適うというべきである。

第四に、刑訴法七九条、二〇七条一項は、弁護権の保障の実効化のため、接見交通権を始めとする弁護活動の開始を促す趣旨で弁護人への勾留の通知を規定し、弁護人がいない場合には、弁護人選任の前提として独立選任権者に対する通知を発すべき旨を定めているが、刑訴法規則七九条、三〇二条は、右を補完して、被告人又は被疑者に独立選任権者である親族がいない場合には、被告人又は被疑者の申出により、独立選任権者以外の者に通知しなければならない旨を定めている。これは、右の通知を受けた者が、自ら弁護人を選任することができなくとも、被疑者等のために弁護人の斡旋をすることを期待している趣旨と解される。しかしながら、刑訴法三九条一項の接見資格を、同法三〇条所定の者から依頼、委嘱を受けた者のみであると限定するならば、右規則の定めはおよそ無意味なものとなってしまう。

以上のとおりであるから、被控訴人は二一日に被疑者乙野の接見に赴いたときから同人の弁護人になろうとする意思を有し、その選任の可能性があった(現に同人は二六日に被控訴人を弁護人に選任している。)以上、被控訴人は、右同日から同人の「弁護人となろうとする者」であったというべきである。

(二) 被控訴人は、二一日、被疑者乙野と接見した際、同人から組合側の了承を条件として弁護人になることの依頼を受け、また同日夜、同人の妻に電話で連絡をした際、同女から弁護人になることの依頼を受けた。したがって、被控訴人は、右の時点以後「弁護人となろうとする者」であったことが明らかである。

2  執務時間外の接見について

(一) 被疑者と弁護人との接見交通権は、憲法三四条、刑訴法三九条一項によって保障された権利であり、その制限事由は、同条二項、三項に所定のもの以外にはない。そして、拘禁施設の執務時間による接見の制限は、同条三項の要件に当らないことはもちろん、同条二項の「逃亡、罪証の隠滅又は戒護に支障のある物の授受を防ぐため必要な措置」にも当たるものではない。仮に、執務時間外の接見を認めることによって逃亡の恐れ等を現実に防止できない場合がありえたとしても、「法令」で右のような場合に限定した措置を規定すべきであり、執務時間外ということのみで一律に接見を制限することは許されない。

ところで、監獄法施行規制一二二条は、執務時間外の接見を一律に禁止しているが、これは刑訴法三九条二項所定の制約を越えるものであるから、同項の「法令」に該当しないものと解される。また同施行規則は、被疑者と受刑者を同一に扱い、弁護人とそれ以外の物との接見についても区別していないこと、更に、同規則は、監獄官吏の立会いの下に弁護人との接見が許されていた当時のもの(明治四一年制定)であって、現在の憲法、刑訴法とは全く整合しないものであることからも、それが刑訴法三九条二項の「法令」に該当するものと解することはできない。

更に、原判決において認定のような施設の執務時間外の接見を認めないとの慣行は存在せず、執務時間外の接見を原則として禁止することに合理性はない。

加えて、警察署での代用監獄における被疑者の取調べは施設の執務時間を事実上無視して行われているのであるから、他方で、執務時間外を理由に弁護人等と被疑者との接見が制約されることは権衡を失するものである。

したがって、検察官Aが執務時間外であることを理由に、被控訴人の二二日及び二三日における接見の申出を拒否したことは違法である。

(二) 仮に、執務時間外の接見のためには「特段の事情」を要するものとしても、被控訴人においては、二一日の被疑者両名との接見が各一〇分足らずのものであったため、被疑事実の確認等まですることができなかったほか、弁護人選任手続も了していず、二二日に申し出た接見が実質上初回というべきものであったから、同日に接見するための高度の必要性があった。また、被控訴人は、二四日については出張のため被疑者両名と接見することが不可能であったものであり、更に、被疑者両名は休日である二三日にも取調べを受けていたのであるから、被控訴人としては二三日に接見する必要性があり、接見したとしても、被疑者両名に対する戒護の体制に支障がなかったことが明らかである。

したがって、被控訴人においては、二二日及び二三日の執務時間外の接見を必要とする特段の事情があったものであるから、検察官Aが同日の接見を拒否したことは違法である。

3  刑訴法三九条三項及び最高裁判所判決における解釈が違憲であることについて

(一) 刑訴法三九条三項について

(1) 憲法三四条の「弁護人に依頼する権利」とは、単に弁護人を選任することができる権利というだけのものではなく、弁護人による実質的な援助を受けることを内容とする権利である。したがって、弁護人が被疑者と立会人なしに面会する権利、いわゆる接見交通権は憲法三四条の保障の中に当然内包されるものと解される。また、身柄を拘束された被疑者についての弁護人の役割は、黙秘権を始めとする被疑者のための諸権利の保障を実質的に確保し、捜査官の違法行為を防止し、被疑者の防御権に実態を与えることにある。この目的に奉仕する弁護人の諸活動は、捜査官の捜査活動を制約するものとして憲法上保障されている。弁護権は、国家が個人を刑事訴追するに際し遵守しなければならない憲法上の制約であり、この弁護権を捜査の必要によって制限することを認めるのは明らかな論理矛盾である。そして、接見交通権は、憲法が保障する被拘束者の弁護権の内容のうち、最も初歩的かつ基本的なものである。

(2) 更に、憲法三八条一項の法理の当然の帰結として、被疑者には捜査官の出頭要請に応じる義務はなく、取調室に滞在する義務もなく、捜査官の行う実況見分や検証に立ち会う義務もない。

(3) したがって、憲法においては、捜査官が、被疑者と弁護人との接見交通権を取調べや実況見分への立会い等の「捜査の必要」により制限することを容認しているものとは解されず、この制限を可能とする刑訴法三九条三項は憲法三四条、三七条三項、三八条に違反するものというべきである。

(二) 最高裁判所判決について

最高裁判所平成三年五月一〇日判決及び同月三一日判決は、刑訴法三九条三項の「捜査のため必要があるとき」の意義について「間近い時に取調べ等をする確実な予定」のある場合も接見指定の要件に含まれると解し、接見指定権が捜査機関の取調べ予定に劣後するものとした。こうした解釈は、国際人権法において承認されている身柄を拘束された被疑者の弁護人依頼権の保障を否定し、日本国が批准している「市民的及び政治的権利に関する国際規約」(昭和五四年八月四日条約七号、いわゆる「国際人権B規約」、以下「B規約」という。)九条、一四条に違反するばかりか、B規約の批准によって、同条約の保障する弁護人依頼権の内容を組み込んだ憲法三四条、三七条三項、三八条一項にそれぞれ違反する。

4  刑訴法三九条三項の国際人権法違反について

(一) 前記のとおり日本国が批准しているB規約一四条三項においては、次のように定められている。

一  すべての者は、その刑事上の罪の決定について、十分平等に、少なくとも次の保障を受ける権利を有する。

b 防御の準備のために、十分な時間及び便宜を与えられること並びに自ら選任する弁護人と連絡すること

c 不当に遅延することなく裁判を受けられること

d 自ら出席して裁判を受けること並びに直接に又は自ら選任する弁護人を通じて防御すること(a、e、f、gは省略)」

(二) 被拘禁者処遇最低基準規則は、一九五五年八月三〇日、犯罪予防及び犯罪者処遇に関する第一回国連会議において採択された決議であり、主として受刑者の処遇を規定するものであるが、未決被拘禁者の接見についても同規則九三条は次のように定めている。

「未決被拘禁者は、自己の弁護のため、無料の法律扶助が可能なところではこれを求め、自己の弁護を目的として弁護人の訪問を受け、かつ、秘密の指示文書を準備してこれを弁護人に手渡せなければならない。この目的のため、未決被拘禁者の希望があれば、必要な筆記用具が与えられなければならない。未決被拘禁者と弁護人との接見は、警察官又は施設職員の監視下とすることができるが、談話の聴取が可能であってはならない。」

同規則は、条約ではないので法的拘束力を持つものではないが、国際的な最低基準として条約を実質的に補足したり、解釈の基準となることによって国際慣習法として機能するものである。

(三) 「あらゆる形態の拘禁・収監下にあるすべての人の保護のための原則」(一般に「国連被拘禁者保護原則」と呼称される。)は、一九八八年一二月九日、第四三回国連総会において採択された国連決議であり、捜査機関に対する司法のコントロール、自白を強要するための拘禁状態の不当な利用の禁止、被疑者・被告人と弁護人との秘密交通権の保障、起訴の前後を問わない国選弁護人の保障や保釈の制度的保障等を今日の国際水準として示すものであるが、同原則一八条は、弁護人との接見交通について、次のとおり定めている。

「1 拘禁又は収監された者は、自己の弁護士と交通し、相談する権利を有する。

2 拘禁又は収監された者は、自己の弁護士と相談するため十分な時間と便益を与えられなければならない。」

3 拘禁又は収監された者が、遅滞なく、また検閲されることなく完全に秘密を保障されて自己の弁護士の訪問を受け、弁護士と相談し、交通する権利は、法律又は法律に基づく規則により特定された例外的な場合において、司法官もしくはその他の官憲により、安全と秩序を維持するために不可欠であると判断されたとき以外には、停止されたり制限されてはならない。

4 拘禁又は収監された者とその弁護士との接見は、法執行官によって監視されてもよいが、聞かれてはならない。(5は省略)」

同原則も条約ではないので法的拘束力を持つものでないが、同原則の一般条項が「本原則については、国際人権規約上の権利を制限又は侵害するように解釈されてはならない。」と述べて、国際人権規約上の権利を具体的かつ発展的に解釈する際の基準となるべきことを予定し、かつ、同原則前文において「国連総会は、この原則が広く知られ尊重されるようあらゆる努力がなされることを求める。」と定めて、同原則が、国際的な基準として、国際人権条約や国内法を実質的に補完することを期待しているので、B規約の解釈基準としての機能が予定されていることは明らかである。

(四) 右の国連被拘禁者保護原則十八条三項の解釈としては、同原則の用語の定義例に従い、「その身分及び地位が、権限、中立公平性、独立についての最強の保障を法によって与えられている司法官その他の官憲」が、被拘束者の抑留されている場所の安全と秩序の維持に不可欠の場合に限ってのみ被拘禁者と弁護人との接見交通を、法規の厳格な運用の下に制限することができるに過ぎないとされているものである。

右の解釈に照らすならば、刑訴法三九条三項は、被疑者及び弁護人と対立当事者の関係にある捜査機関が接見交通の制約権限を有するという主体の点並びに接見制限の根拠を捜査の必要性に求めている点において、同原則十八条三項に違反しているものであり、そのことは、取りも直さずB規約一四条三項違反となるものである。

したがって、刑訴法三九条三条の規定及び同条項に基づく一般的指定制度の運用は、国際人権法とりわけB規約一四条三項に違反する結果、裁判所は、条約の直接効により、本件において刑訴法三九条三項を適用することができず、控訴人も右条項を援用することは許されない。

5 控訴人の主張2に対する反論

(一) 法律解釈に対立がある場合、その法律が刑訴法三九条三項のような権利侵害規定であるならば、本来の解釈は一義的、明確なものでなければならないから、国の営為として解釈の対立状況を放置して客観的法秩序に混乱をもたらすことは許されない、換言すれば、解釈の対立状況それ自体が国(控訴人)の行為規範違反を示しているのであるから、解釈の対立を理由に違法性の阻却を主張することは本末転倒である。

(二) ところで、控訴人の主張する法律解釈に対立がある場合とは、根拠法規の法律解釈について複数の異なった解釈があるため、公務員の内部で実務上の取扱いが分かれている場合を指すものであり、裁判所による有権的な法律解釈が示されているにもかかわらず、公務員がこれを遵守せず、異説を唱えている場合についてはこれに該当しないものというべきである。そして、刑訴法三九条三項における「捜査のため必要があるとき」の解釈については、最高裁判所昭和五三年七月一〇日判決がいわゆる限定説の考え方を示し、解釈の対立状況を解消したものと解されるところ、捜査機関側がこれに異を唱え、なお非限定説を主張しているだけであるから、本件は、右の法律解釈に対立がある場合には当たらない。

(三) また、権利侵害規定について解釈が対立している場合であっても、複数の解釈は等価値ではなく、公務員側は、後日裁判所の有権的判断によって確定されるべき正当な解釈に到達するよう可能な限り検討すべきであり、右の正当な解釈に到達することが可能であったにもかかわらず、後日違法と判断された解釈により公務を執行した場合には、解釈対立時における行為規範に反し違法というべきである。

(四) 右によれば、検察官Aの非限定説に基づいて行った指定権の行使及び本件準抗告決定による一般的指定の取消後の措置は、解釈の対立が存在しないか、もしくは正当な解釈に達することが可能な状態の下になされたものであるから、違法というべきである。

(五) なお、法律解釈が対立する状況にある場合、当該公務員が後日確定されるべき有権的解釈を発見するための努力を尽くしても正当な解釈に到達することができないならば、違法性の意識の可能性がないものとして責任が阻却されることもありうると考えられる。しかし、検察官Aにおいては、限定説が多数説であることや、前記の最高裁判所昭和五三年七月一〇日判決の存在を当然に熟知していたものであり、また、本件においては、前記のとおり、法律解釈の対立状況自体が存在しなかったものであるから、同検察官の責任が阻却されることはない。

三  被控訴人の主張に対する控訴人の認否、反論

1  被控訴人の主張1(一)については争う。

2  同1(二)の事実は否認する。

3  同3につていは争う。

(一) 刑訴法三九条三項が憲法三四条に違反するとの主張について

被疑者には、憲法三四条によって弁護人依頼権が認められているが、弁護人等の接見交通権は、憲法の右の条項によって直接認められた権利ではなく、同条の趣旨に則って刑訴法により認められた権利である。のみならず、憲法上の権利であると否とを問わず、いかなる権利といえども、公共の福祉ないし内在的制約の法理に由来する一定の制約に服すべきものである(憲法一二条後段)。

ところで、捜査機関の接見指定権(刑訴法三九条三項)は、憲法がその存在を当然の前提とする国家の刑罰権(憲法三一条ないし四〇条の各規定は、国家の刑罰権の存在を前提としている。)に基づく権限である。そして、右は、事案の真相を明らかにし、国家刑罰権を適正かつ迅速に行使するため(刑訴法一条)、捜査の必要性、すなわち、犯罪の嫌疑がある場合に、公訴の提起、遂行のために犯人を探索し、証拠を収集保全する必要から認められた権限である。

弁護人等の接見交通権と捜査機関の捜査権ないし接見指定権との関係は、弁護人等の接見交通権が捜査機関の捜査権等に優先するなど、いずれか一方が他方に優越するとの関係ではない。弁護人等の接見交通権は、被疑者の防御権行使のための重要な権利であると同時に、国家刑罰権行使の適正な実現を担保するためのものでもあることから、両者は、相互の均衡を保ちつつ運用されることが要請されているものである。

右の関係は、仮に、弁護人等の接見交通権が憲法三四条に基づく権利であったとしても異なるものではない。換言すれば、起訴前には捜査の必要性が高度に存在することから、弁護人等の接見交通権は、それとの関係で合理的な制限がなされるものである。すなわち、憲法三四条前段がいかなる場合にも「直ちに接見する」ことを保障しているとまで解することはできず、接見交通権をどのような権利として保障すべきかについては、憲法三四条前段による趣旨に基づく合理的な立法政策に委ねられていると解するのが相当である。

刑訴法三九条三項は、右のような趣旨から、起訴前に限り、「捜査のため必要があるとき」に、捜査機関が接見等の日時、場所、時間を指定するものとし、例外的に被疑者の防御権を不当に制限してはならないとして両法益の調和を図ったものであって、違憲と解すべき理由はない。

(二) 刑訴法三九条三項が憲法三七条、三八条に違反するとの主張について

憲法三七条三項の弁護人依頼権は、その文言上からも明らかなとおり、刑事被告人の権利を規定するものであって、被疑者に関するものではない。また、憲法三八条一項の「何人も、自己に不利益な供述を強要されない。」との規定は、被控訴人が主張するような被疑者には取調べに応じる義務のないこと等を定めた規定ではなく、弁護人依頼権と同条項が直ちに結びつくものとはいえない。したがって、刑訴法三九条三項が憲法三七条、三八条のいずれにも違反するものでないことは明らかである。

(三) 最高裁判所の判例理論が憲法に抵触するとの主張について

被控訴人主張の最高裁判所判決の判示は、弁護人等の接見交通権と捜査機関の接見指定権の適正な調和を図ったものであり、憲法の各規定に何ら違反するものではない。

なお、B規約一四条については後記4のとおりであり、同九条については、逮捕、抑留の際の理由告知、裁判官等による司法審査、損害賠償請求権等を定めたものであって、弁護人の依頼権や接見交通権を定めた規定ではない。

4  同4については争う。

(一) B規約の国内的効力について

B規約二条は、同規約の総則的規定であって、この規約の実体的権利を規定するすべてに関連するものであるところ、同条二項は「この規約の各締結国は、立法措置その他の措置がまだとられていない場合には、この規約において認められる権利を実現させるために必要な立法措置その他の措置をとるため、自国の憲法上の手続き及びこの規約に従って必要な行動をとることを約束する。」と規定している。したがって、B規約一四条を含む実体的権利を規定する各条項が、いわゆる自動執行的な条項でないことは明文上明らかである。

(二) B規約一四条三項b及びdについて

同項dは、その文言上からしても被疑者に関するものではなく、被告人に関する規定である。

また、刑訴法三九条一項は、被告人及び被疑者と弁護人等との接見交通権を認めているが、それと捜査の必要性とを調整するため、同条三項において、検察官等は捜査のため必要があるときのみ、弁護人等との接見について日時、場所、時間を指定できる旨規定し、この場合も「その指定は、被疑者が防禦の準備をする権利を不当に制限するようなものであってはならない。」として、弁護人等との接見交通権に対する配慮を加えている。同条三項は、右のとおり被疑者の防御の準備を不当に制限しない範囲において、捜査のため必要がある場合の措置として被疑者との接見指定を認めたものであるから、刑事上の罪の決定にあたって被疑者の防御の準備を保護するため自ら選任した弁護人と連絡することを規定したB規約一四条三項bの趣旨に沿うものでこそあれ、それに反するものでないことは明らかである。

(三) 国連総会決議を経た規則及び原則について

被控訴人主張の国連総会決議を経た規則及び原則は、国連加盟国に対して何らの法的義務を課するものでない上、B規約の解釈基準を定めたものでもない。右原則等は、各国の司法制度が異なることを前提として各国がそれぞれの社会、文化、伝統に照らして最も適当と認める制度を確立運営していくことを否定する趣旨ではなく、あくまでもガイドラインを示したものにすぎない。

第三  証拠<省略>

理由

一当事者及び被控訴人の弁護人等としての地位について

1  請求原因1(一)の事実中、被控訴人が、札幌弁護士会所属の弁護士であり、本件被疑事件における被疑者両名の弁護人であったことについては当事者間に争いがなく、右事実に、<書証番号略>並びに原審及び当審における被控訴人本人尋問の結果によると、被控訴人は、二〇日午後七時ないし八時ころ、被疑者甲野の長男である一郎から電話による相談を受け、翌二一日午前八時ころ、被控訴人の事務所において一郎と面会することにより、同人から被疑者甲野の弁護人になることについて依頼を受けたこと、続いて、被控訴人は、同日午前九時過ぎころ、一郎とともに白石署に赴き、被疑者甲野に接見するとともに、一郎の要望により被疑者乙野とも接見したが、その際、被疑者乙野から、組合による弁護費用の負担の点を含めて組合の了解を得ることができるならば、被控訴人に対し本件被疑事件の弁護を依頼したい旨の意向を表明されたこと、なお、被控訴人は、同日夕刻、組合の役員と面談し、組合が被疑者両名の弁護費用を負担することとともに、被控訴人が被疑者両名の弁護人となることについて了承を得たこと、その後、被控訴人は、後記二で認定の経過により、二六日に被疑者両名から弁護人選任届の作成を受け、同人らの弁護人となったことが認められる。

そこで、被控訴人が、右の弁護人選任届を得た二六日前においても、被疑者両名について「弁護人となるべき者」としての地位にあったか否かについて検討するに、刑訴法三九条一項の「弁護人を選任することができる者の依頼により弁護人となろうとする者」とは、公訴提起前においては、同法三〇条所定の弁護人選任権を有する者から、当該被疑事件に関して弁護の依頼、委嘱を受けながら、未だ、捜査機関に対する選任届の未提出又は口頭による届出の未了によって選任手続きを完了するまでに至っていない者を指すと解するのが相当である。

この点について、被控訴人は、右の「弁護人を選任することができる者の依頼により弁護人となろうとする者」とは、当該弁護士において弁護人になろうとする意思があり、弁護人の選任権者において右弁護士を選任する可能性があれば足りるものと解すべき旨を主張するが、右解釈は、同条の文理にも反し(右の趣旨であるとするならば、法文上、単に「弁護人となろうとする者」と定めることで足りるはずである。)、また刑訴法が、同条により弁護人等と被疑者らとの接見交通権を特に保障し、接見禁止決定の効力も及ばないものと定めている(同法八一条)趣旨をも考慮すると、右主張は採用し難い。

そうすると、前記認定の事実からみるならば、被控訴人は、被疑者甲野については、二一日の接見に先立ち、同人の子である一郎の依頼により「弁護人となろうとする者」となったことが明らかであるが、被疑者乙野については、右接見後にその地位を取得したものというべきである。

したがって、被控訴人の、被疑者乙野との接見交通権については、二一日における接見時には侵害される余地がなかったものというべきであるから、二二日以降についてその侵害の有無を検討すれば足りることになる。

2  同(二)の事実については当事者間に争いがない。

二事実経過について

本件における事実経過についての当裁判所の認定、判断については、次のとおり付加、訂正するほかは、原判決の理由「二 事実経過について」(同二七枚目裏一三行目から同四二枚目表三行目まで)と同一であるから、これを引用する。

1  原判決二九枚目裏一四行目の「前掲」の次に「甲第三号証の2、」を加え、同三〇枚目表一行目の「第三号証の2、」を削除し、同四行目の「第三八号証、」の次に「第五六ないし第六二号証、原本の存在とその成立に争いのない乙第六六、第六七号証、」を加える。

2  同三一枚目表七行目の「聴取した後」を「聴取し、改めて右依頼を受けた後」に、同一二行目の「被疑者甲野」を「被疑者両名」にそれぞれ改める。

3 同三二枚目表八行目の「一〇分間接見できたが」を「一〇分間、被疑者乙野とその後の一〇分間、それぞれ接見できたが」に、同一四行目から同枚目裏一行目にかけての「至らなかった。」を「至らず、なお、被疑者乙野からは、前記一1のとおりの弁護人の選任に関する意向のほか、被疑事実の内容について若干聴取した。」に、同三行目の「帰監した。」を「帰監し、なお被疑者乙野も、同様に午前九時五〇分に取調べのため留置場を出て、午後七時三五分に帰監した。」にそれぞれ改める。

4  同三三枚目裏一行目から同三行目までを次のとおり改める。

「(四) 二二日においては、被疑者甲野は、午前八時五〇分から午前九時二〇分まで鑑識のため、午前九時三〇分から午前一一時四〇分まで、午後一時二〇分から午後五時四〇分まで各取調べのため留置場を出ており、被疑者乙野は、午前八時五〇分から午前九時二〇分まで鑑識のため、午前九時五一分から午後零時二八分まで、午後三時〇七分から午後五時〇九分まで各取調べのため留置場を出ていた。」

5  同三三枚目裏八行目の「出ていた。」を「出ており、被疑者乙野は午前一〇時三〇分から午後零時三〇分まで、午後一時三七分から午後四時一二分まで各取調べのため留置場を出ていた。」に改める。

6  同三四枚目表一行目の「なされた。」の次に「また被疑者乙野は、午前八時三〇分から午後二時四〇分まで取調べのため留置場を出ていた。」を加え、同一一行目の「認めなかった。」を「認めることなく、そのまま電話を切った。」に改める。

7  同三四枚目表一四行目の「出ていた。」の次に「また被疑者乙野は、午前八時四五分から午前一一時五〇分まで、午後一時四〇分から午後五時二五分までそれぞれ取調べのため留置場を出て、その間午前九時三五分から午前一〇時五〇分まで検察官Bの取調べを受け、午後一時から午後三時三〇分まで同検察官により検察官面前調書の作成を受け、午後四時三一分から午後五時〇五分まで再度取調べを受けた。」を加える。

8  同三五枚目裏一二行目の「同所にいた」を「同所において、それまで大部屋に隣接する取調室で被疑者乙野の取調べにあたっていた」に改める。

9  同三六枚目表一行目の「在監していた。」を「在監しており、被疑者乙野は午後零時三〇分から午後二時四〇分まで、午後七時三五分から午後八時までそれぞれ留置場を出て、その間検察官Bの取調べを受けた。また、同検察官は、同日午後三時から午後七時までの間、同被疑者の検察官面前調書の作成にあたっている。」に改める。

10  同三七枚目表七行目の「状況であった。」の次に「一方、被疑者乙野は終日在監していた。」を加える。

11  同四〇枚目裏一〇行目の「原告は」から同一四行目の「また、」までを削除し、同四一枚目表三行目の「右供述も」を「右供述は」に改める。

三接見交通権の意義及びその制限について

1  刑訴法三九条三項の解釈

憲法三四条前段は、何人も直ちに弁護人に依頼する権利を与えられなければ抑留又は拘禁されないことを規定し、刑訴法三九条一項は、その趣旨に則り、被告人又は被疑者は弁護人等と立会人なくして接見し、書類又は物の授受をすることができるものと規定する。右の被疑者らと弁護人等との間の接見交通権は、刑事手続上、身体を拘束された被疑者らが、自己の防御を尽くすため弁護人の援助を受けるにあたって最も重要な基本的権利に属するものであり、弁護人にとっても、その固有権として最も重要なものの一つというべきである。

他方、国の刑罰権の行使も憲法上是認されているところであり、更に刑訴法においては、捜査機関側に、被疑者の身体の拘束による強制捜査について厳格な時間の制約を課していることから、同法三項において、右の接見交通権と捜査の必要との調和を図り、捜査機関が、捜査のため必要があるときは、右の接見、物の授受に関し、日時、場所、時間を指定することができるものと規定されているところである。

しかしながら、被疑者らと弁護人等との接見交通権は、右のとおり憲法上の保障に由来する権利であることに鑑みるならば、右の捜査機関による接見の日時等の指定は、あくまでも必要やむを得ない例外的措置として、それにより被疑者らの防御権を不当に制限することのないよう行使されなければならないことは当然である(同条但書)。したがって、捜査機関としては、弁護人等から被疑者との接見等の申出があった場合には、原則としていつでもその機会を与えるべきであり、ただ、右の申出を認めると捜査の中断による支障が顕著な場合においては、弁護人等と協議して、できる限り速やかに接見等のための日時を指定し、被疑者が弁護人等と協議して防御の準備をすることができるような措置を取るべきであり、なお、その際においては、接見等の目的に応じた合理的な範囲内の時間の確保について配慮すべきである。

そして、右にいう捜査の中断による支障が顕著な場合とは、捜査機関が弁護人等の接見等の申出を受けたときに、現に被疑者を取調中であるとか、実況見分、検証等に立ち会わせているような場合だけでなく、間近い時に取調べ等を行う確実な予定があって、弁護人等の必要とする接見等を認めたのでは、右取調べ等を予定どおり開始できなくなる恐れがある場合をも含むものと解するのが相当である(最高裁判所平成三年五月一〇日第三小法廷判決、同平成三年五月三一日第二小法廷判決)。

また、捜査機関においては、右により弁護人等の申出の日時等を認めることができないときは、改めて接見の日時等を指定して弁護人等に告知する義務があるものというべきであるが、右の日時等を指定する際いかなる方法を用いるかについては、その合理的な裁量に委ねられているものと解されるから、その方法が著しく合理性を欠き、弁護人等と被疑者との迅速かつ円滑な接見交通が害される結果となるときは、違法なものとして許されないというべきであるが、そうでなければ、電話等による口頭の指定のほか、書面の交付による日時等の指定の方法(具体的指定書の交付等)を用いることも許容されるものというべきである(前掲最高裁判所平成三年五月一〇日第三小法廷判決)。

2  刑訴法三九条三項に対する憲法違反の主張

以上に対し、被控訴人は、刑訴法三九条三項の規定並びに前記判示のとおりの最高裁判所平成三年五月一〇日判決及び同月三一日判決における同法三九条一項及び三項についての解釈が、憲法三四条、三七条三項、三八条一項に違反するものと主張する。

しかしながら、前記のとおり、被疑者等と弁護人等との接見交通権は、憲法三四条前段に由来する権利ではあるが、国家の刑罰権に対しいかなる場合においても常に優先すべきものと解することは相当ではなく、その間をどのように調整するかは、憲法三四条前段において弁護人選任権を保障した趣旨を踏まえた立法政策の問題というべきである。そして、刑訴法三九条三項本文においては、捜査機関側に接見等の指定権を与えたものの、その但書において、右指定権の行使が「被疑者が防禦の準備をする権利を不当に侵害するようなものであってはならない。」と定めて、接見交通権を明確に保障し、更に、前記最高裁判所判決は、同条一項及び三項について、右指定権の内容及び行使方法を前記のとおり限定的に解釈するものである以上、同条三項の規定及び右判決の説示が憲法三四条前段に違反するといえないことは明らかである。

また、憲法三七条三項は刑事被告人についての規定であると解されるから、本件において同条違反を検討する余地はない。

更に憲法三八条一項については、同条項が被疑者と弁護人等との接見交通権に直接関連するものではなく、被疑者においては、接見交通権の保障とは別に、自己に不利益な供述の拒否権を有するものであるから、接見交通権の在り方が直ちに同条違反をもたらすものとも解されない。

そして、以上については、被控訴人主張の国際人権規約等を考慮したとしても同様であるから、刑訴法三九条三項の規定及び前記最高裁判所判決の判示が憲法に違反するとの被控訴人の主張は失当である。

3  刑訴法三九条三項に対する国際条約違反の主張

被控訴人は、刑訴法三九条三項が、日本が批准した国際条約であるB規約一四条三項及び国連における各決議に違反する旨をも主張する。

しかしながら、刑訴法三九条三項は、一項とあいまって、その但書により捜査機関側の接見指定権に限定を加え、被疑者と弁護人等との接見交通権を保障した趣旨のものであり、更に、同条項については前記最高裁判所判決における判示のように限定的に解釈するのが相当であることからみるならば、それがB規約一四条三項に違反するものとは認められず、一方、被控訴人主張の国連決議についても、それ自体が国連加盟国に対し条約としての効力を有するものではなく、またB規約と一体をなすべきもの又は国際慣習法として条約同様の効力を有するものでもない。

したがって、被控訴人の右主張も失当である。

4  一般的指定書の発行による接見交通権の侵害の有無

次に、被控訴人の、一般的指定書の発行による接見指定権の侵害の主張については、当裁判所も、右指定書は捜査機関の内部的な事務連絡文書の性質を有するものであり、それ自体によって接見交通権が侵害されるものではないと解するものであって、その理由は、次のとおり訂正するほか原判決の理由三「2 一般的指定書の発行による接見交通権の侵害について」(同四三枚目表五行目から四七枚目裏一四行目まで)と同一であるから、これを引用する。

(一)  同四三枚目表一三行目の「なされている」を「なされていた」に、同枚目裏三行目の「第三五号証の1」を「第三五号証の1、2」に、同枚目裏六行目の「執行実務」を「執行事務」にそれぞれ改める。

(二)  同四四枚目表一〇行目から同一一行目にかけての「注意書の記載にもかかわらず、その謄本を被疑者及び弁護人に交付する扱いが」を「注意書においてその謄本を被疑者及び弁護人にも交付する旨が記載されているにもかかわらず、その扱いが」に改める。

(三)  同四五枚目表二行目の「事務連絡文書」を「監獄の長等に対する内部的連絡文書」に、同三行目の「緊急」を「緊急性等を配慮し」にそれぞれ改める。

(四)  同四五枚目裏四行目の「第三五号証の1」を第三五号証の1ないし3」に改め、同五行目の「、三一」を削除し、同六行目の「第三二号証の2」を「第三二号証の1」に改め、同七行目から同八行目にかけての「、第五六、五七号証」を削除し、同一三行目の「とどまる」を「とどまり、被疑者もしくは弁護人等に対し何らかの効力を生ぜしめるものではない」に改める。

(五)  同四七枚目裏六行目の「弁護人等の接見を」の次に「不当に」を加える。

5  接見時間

被控訴人の接見時間の主張についても、当裁判所は採用できないものと判断するが、その理由については、原判決の理由三4「(三) 接見時間について」(同五二枚目表一行目から同裏一行目まで)と同一であるから、これを引用する。

6  執務時間外の接見

被控訴人は、捜査機関が被疑者と弁護人等との接見の日時を指定する際、執務時間外の時刻を指定しないことは違法であるとも主張する。

しかしながら、監獄法五〇条において、接見の制限は命令をもって定めることとされ、それを受けて、同法施行規則一二二条においては、「接見ハ執務時間内ニ非サレハ之ヲ許サス」と定められているところ、右は、刑訴法三九条二項にいう、被告人又は被疑者の逃亡、罪証の隠滅又は戒護に支障のある物の授受を防ぐため必要な措置を定めるための「法令」に該当するものと解され、また、拘禁施設側に対し、右の逃亡等を防ぐため十分な人的、物的保安態勢、監護態勢が要請されていることに鑑みるならば、右の規定の定めは合理性を欠くものではないというべきである。したがって、身柄を拘束された被疑者の防御権の行使に支障のある緊急の場合を除き、被疑者と弁護人等との接見時刻についても右の制限が及ぶことはやむを得ないものといわざるをえない。

そして、<書証番号略>によると、札幌方面警察署における執務時間は、平日が午前八時三〇分から午後五時一五分まで、土曜日が午前八時三〇分から午後零時三〇分までとされていることが認められるから、検察官等が、弁護人等からの接見の申出に対し指定権を行使する場合、右の執務時間外の時刻を指定しなかったとしても、前記のとおり除外される特段の場合を除き、原則として違法性を有しないものというべきである。

四本件における接見指定権の行使等についての違法性の有無

以上の判断を下に、本件における検察官Aの具体的指定権の行使等についての違法性の有無を検討するならば、次のとおりである。なお、<書証番号略>によって認められる一二月一日及び二日の被疑者両名の出監状況と前記二で認定の各事実を総合するならば、被疑者両名が留置場を出ていた時間帯は原判決添付の別表記載のとおりであることが認められる(ただし、二五日における被疑者甲野の午後の取調べ開始時刻である「11:45」を「1:45」に改める。)。

1  二一日について

被控訴人は、同日の検察官Aの措置について、指定要件がないにもかかわらず接見指定を行い、指定書の受取りを求めた上、接見時間を各一〇分間としたことは違法である旨を主張する。

そこで検討するに、

(一) 前記二で認定の事実のほか、<書証番号略>によると、被疑者両名は、当日の午前九時五〇分から取調べのため留置場を出て、警察官による取調べを受けたことが認められ、また、本件被疑事件は、贈賄事件としての性質上、被疑者両名を含めた関係者の供述が重要な証拠とならざるをえないこと、同日は被疑者両名が一九日(土曜日)に勾留手続きを取られて三日目という、捜査にとって重要な時期であったことからみて、その取調べは予め確実に予定されていたものと認めることが可能であり、更に、右事情に加え、勾留延長前における他の平日の午前中の取調べが午前九時三〇分ころないしはそれ以前から開始されていたことに鑑みるならば、同日の被疑者両名に対する取調べの開始も、本来ならば午前九時五〇分以前から予定されていたものと推認する余地がある。

そうしてみると、当日における被控訴人の接見の申出時刻を考慮した場合、被控訴人に対し、「捜査のため必要があるとき」に該当するものとして接見時間を限定して指定すべき要件が存在したものと認めざるをえず、また、被控訴人の申出が被疑者両名についてのものであった以上、検察官Aが、被疑者甲野について右接見時間を一〇分間と指定したことについては、同日に関する限り違法性を認め難いものといわざるをえない(なお、同日における接見指定については、右の違法性の問題を別としても、前記二で認定のとおり、被控訴人は、同日の接見において、被疑者甲野自身からは組合が他の弁護人を選任する可能性があるとして確定的に弁護人としての選任を受けるまでには至らなかったものであるから、接見時間を一〇分間と指定され被疑事実等まで聴取できなかったとしても、被控訴人について、特に弁護人等としての立場における損害が発生したものとみなすことも困難である。)。

(二) また、検察官Aが、同日、被控訴人に対し具体的指定書の受取りを求めた点についてみるに、前記三1のとおり、捜査機関側が接見の日時等を指定する方法については、それが著しく合理性を欠き、弁護人等と被疑者との接見交通権が害される結果となる場合を除き、その合理的な裁量に委ねられているものと解されるところ、具体的指定書の交付による指定方法は、弁護人等にある程度の負担を与えるものの、指定の内容を明確にし、指定内容を巡る紛争を未然に防ぎ、不服申立ての際にも対象の特定のため便宜であるとの利点もあることから、捜査機関側が接見指定を行うに当たって具体的指定書によるべきことを求めたとしても、そのこと自体が合理性を欠く行為であることはいえず、捜査機関が指定方法を選択するに当たっての裁量の範囲内の行為であるというべきである。更に、検察官Aは、当日、右指定書の受取りがないことを理由に被控訴人の接見を拒否したわけでもなく、被控訴人は右指定書を持参しないまま被疑者甲野と接見しているのであるから、検察官Aの右指定書の受取りを求めた行為を直ちに違法なものであったということはできない。

(三)  以上のとおりであるから、同日の検察官Aの接見指定等については、特に違法と認めることはできないというべきである。

2  二二日について

被控訴人は、同日に関する検察官Aの措置について、指定要件がないにもかかわらず、取調べ予定であるとの理由のみで、被疑者両名の身柄、捜査状況の調査の支障との調整も一切行わずに接見を拒否したことは違法である旨主張する。

そこで検討するに、前記二で認定のとおり、被控訴人の申出に係る接見の希望時刻は同日の夕方というものであり、原審における被控訴人本人尋問の結果によると、それは、具体的には午後五時以降を指すものであったことが認められる。したがって、被控訴人の右申出は、執務時間外にわたる接見を求めるものということになるから、接見を求めるための特段の事情を要し、また、右申出に対し指定権を行使した検察官Aの措置が違法であるためには、同検察官においてその事情を認識していたことを要するものというべきである。この点について、被控訴人は、原審における本人尋問において、右申出の際、検察官Aに対し、当日の接見は弁護人選任の手続きのためである旨を説明したと述べるが、これを否定し、右選任手続きに関する事情については二六日に初めて聞いたとする原審証人Aの証言内容に照らすならば、右の供述は容易には採用し難いところである。そうすると、翌日(二三日)が休日であるとしても、被控訴人が前日に被疑者両名と短時間ながら接見していることをも考慮するならば、右の特段の事情は認め難く、同検察官が、被控訴人の右申出に対し指定権を行使したことについても違法性がなかったというべきである。

3  二三日及び二五日について

当裁判所も、検察官Aの二三日に関する措置については違法ではないと判断し、二五日の措置については一部違法と判断するものであって、その理由については、原判決の理由三4(五)「(3)二三日の接見拒否」「(4) 二五日の接見拒否」(同五六枚目表九行目から五七枚目裏五行目まで)と同一であるから、これを引用する。

4  二六日について

被控訴人は、同日の検察官Aの措置について、一般的指定が本件準抗告決定により取り消された後も、同検察官がそれを無視し、具体的指定書の受取り、持参を要求して接見を妨害し、更に指定要件がないにもかかわらず接見指定をして、接見時間を著しく制限したのは違法である旨を主張する。

(一) まず、検察官Aが、本件準抗告決定により一般的指定が取り消された後も指定権を有することを表明し、被控訴人に対し、具体的指定書による接見指定の方法によるべきことを求めたことの違法性についてであるが、一般的指定の効力に関しては前記三4のとおり解すべきものであるとすれば、右決定により一般的指定が取り消されたとしても、そのことによって捜査機関側と被疑者、弁護人等側との間に何らの効力が新たに生じるものと解すべき理由はなく、したがって、右取消しにより捜査機関側が従前の刑訴法三九条三項に基づく指定権(具体的指定権)を失うに至ったものと解すべき根拠もまた存在しないといわざるをえない。そうすると、検察官等は、本件準抗告決定が出された後においても、接見指定の要件があれば指定権を行使することができるものというべきである以上、検察官Aが、被疑者両名の留置担当者に対しその旨を表明するとともに、弁護人等に対しその指定の方法として書面(具体的指定書)によるべきことを求めたとしても、このことをもって違法と解することができないことは、前記1(二)において判示したところと同様である。

また、被控訴人は、同日、検察官Aの右要請に応じ、以後、具体的指定書の交付を受けて被疑者両名と接見することに同意したものであるが、<書証番号略>により認められる被控訴人の当時の弁護士事務所の所在地(札幌市中央区大通東二丁目三番地、検察庁と約二キロメートルの距離である。)等からみて、右の具体的指定書の交付による接見日時等の指定方法が、それ自体で、被控訴人に対する方法として著しく合理性を欠き、弁護人等と被疑者両名との迅速、円滑な接見交通を害することになるものとまでは解し難い。

したがって、検察官Aが、同日、従前どおり指定権を有することを表明し、被控訴人に対し具体的指定書の交付による接見指定を求めたこと等については、違法性があるものとすることはできない。

(二) 次に、検察官Aが、同日、被控訴人の被疑者両名に対する接見時間を各一〇分間と制限したことについてみるに、前記二で認定のとおり、当日は土曜日であり、被控訴人が接見を求めた時刻は執務時間外であったところ、被控訴人は、二一日に被疑者両名と短時間の接見をして以来二六日まで同人らと接見できず、同人らから弁護人選任届を得るまでには至っていなかったものであるから、同人らの防御権の行使のため、執務時間外に接見すべき緊急の必要性があったものというべきである。そして、検察官Aも、当日、被控訴人との電話による交渉中、被控訴人から右事情の説明を受けたことのほか、被疑者甲野については、当日取調べの予定はなく、終日在監していたことも前記二のとおりである。

そうすると、検察官Aとしては、被疑者甲野について、被控訴人の申出に係る接見を拒否すべきではなく、同人について接見指定の要件が存在しなかったものといわざるをえないから、同検察官が被控訴人に対し、同被疑者に対する接見について時間を一〇分間に制限する指定をしたことは、違法な措置であったというべきである。

また、被疑者乙野については、被控訴人が接見を求めた時刻において現に検察官Bの取調べを受けていたものであるが、取調べ中であっても捜査の中断による支障が必ずしも顕著とはいえない場合があることも考えられるところ、被控訴人が同被疑者と接見を求める前記の事情及び検察官Bが、原審における証人尋問の際、右取調べについて、被控訴人と同被疑者が接見することにより取調時間の終了が延びる以外に具体的な支障が生じなかったと述べていること等を考慮すると、同被疑者との接見についてもその時間を一〇分間に限定すべき必要性があったものとは解し難いから、検察官Aにおいて、右接見を認める以上、時間を一〇分間に限定したことは相当とはいえず、検察官Bとも調整の上、取調べ中ではあったにせよ、より長時間を指定すべきであったか、もしくは同検察官の取調べ終了後、時間の限定なく接見の機会を与えるべきであったものというべきである(なお、同被疑者の取調べは、午後二時四〇分に終了し、午後七時三五分から再開しているが、その間の接見については時間の制限をしなくとも支障はなかったものと考えられる)。

したがって、検察官Aの被疑者乙野に対する接見指定についても、右のとおり接見時間を限定した点において違法があったものといわざるをえない。

5  二八日について

被控訴人は、同日の検察官Aの措置について、被控訴人に対し、指定要件がないにもかかわらず、接見を拒否して一方的に三〇日を指定し、またその際、接見時間を著しく制限した上、具体的指定書の受取り、持参を求めたことにおいて違法である旨主張する。

しかしながら、右のうち検察官Aが被控訴人に対し具体的指定書の受取り、持参を求めたことが違法といえないことについては、前記1(二)、4(一)と同様である。

他方、同検察官の二八日における指定権の行使についてみるならば、まず、被疑者甲野に関しては、被控訴人の同日における接見申出の時刻が証拠上必ずしも明らかでないが、仮に、同被疑者が右申出時以降同日の執務時間終了時まで取調べを受け(同人は、午前九時四〇分から午前一一時四五分まで及び午後一時五〇分から午後五時五五分までの間、取調べのため留置場を出ていた。)、接見指定の要件があったとしても、同検察官としては、被控訴人に対し、前記三1のとおり、取調べ終了後できる限り速やかに接見の機会を与えるべきであった以上、同被疑者の取調べ状況からみて、翌二九日の取調べ開始前等に被控訴人の接見を認める余地があったものというべきであり<書証番号略>からみて、被控訴人もその時間には接見が可能であったことが窺える。)、また本件において右時刻の接見を妥当でないとする事情も見当たらないことから、同検察官が、これを三〇日午後一時まで認めなかったことについては、指定権の行使について違法があったものというべきである。

次に、被疑者乙野については、被控訴人が接見を希望した二八日には取調べ予定がなく、終日在監していたものであるから、同人について接見指定の要件がなく、同検察官による指定権の行使は違法なものであったといわざるをえない。

6  一二月三日について

被控訴人は、検察官Aの一二月三日の措置について、同検察官が、指定要件がないにもかかわらず被控訴人の接見時間を著しく制限した上、被控訴人に対し具体的指定書の受取り、持参を求めた点において違法である旨を主張する。

しかしながら、右のうち、同検察官が被控訴人に対し具体的指定書の受取り等を求めたことが違法といえないことについては、前記1(二)、4(一)と同様である。

次に、同日においては、被疑者両名とも取調べがなく在監していたものであるから、いずれも接見指定の要件がなかったものというべきである。したがって、同検察官において、被控訴人の接見時間を被疑者両名につき各一五分間と制限して指定したことは、違法な措置であったといわざるをえない。

7  以上のとおりであるから、検察官Aが被控訴人に対し行った接見指定等のうち、二五日、二六日、二八日及び一二月三日の各指定については違法性を有するものというべきことになる。

五違法性に関する控訴人の主張について

これに対し、控訴人は、国家賠償法一条一項にいう違法とは、他人に損害を加えることが法の許容するところであるか否かという見地からする行為規範性であるとして、接見指定権の行使について同法一条一項の責任が成立するためには、検察官等による右指定権の行使が、単に刑訴法三九条三項に違背するだけでは足りず、それが著しく合理性を欠くものであることが明らかであること(その目的、範囲を著しく逸脱し、又は甚だしく不当として刑訴法上の権利の濫用にわたる場合、もしくは通常の検察官であれば当時の状況下における判断として何人も当該行為に出なかったであろうと認めるに足りる事情がある場合等)を要するものと主張する。

しかしながら、右主張は、要するに、接見指定権の行使について、指定の要件の存否及び指定権の行使の可否が第一次的に検察官等に委ねられるべき判断作用ないし裁量行為であるとすることを前提とするものと解されるが、接見指定権の要件の認定及び行使の適否については、個々の検察官等の判断ないし裁量に関わるべきものではなく、前記三1の基準により客観的に判断されるべきものと解されるから、検察官等による接見指定権の行使が刑訴法三九条三項に違反するならば、国家賠償法上においても違法と評価されるべきことは当然である。そして、このことは、右指定権の行使に対し刑訴法上準抗告による不服申立ての制度が存在することによっても、左右されるものではないというべきである。

したがって、控訴人の右主張は失当である。

六検察官Aの過失について

1  右のとおり違法とされた接見指定権の行使については、検察官Aが刑訴法三九条三項にいう「捜査のため必要があるとき」の判断を誤ったことによるものであるから、同人に過失があることは明らかである。

2  これに対し、控訴人は、公務員の職務の執行にあたって、その根拠となるべき関係法律の解釈について異なる見解が対立し、実務上も取扱いが分かれ、そのいずれについても相当の根拠が認められる場合に、公務員がその一方の見解を正当と解しこれに従って公務を執行したときは、後にその執行が違法であると判断されたとしても、直ちに公務員に過失があったものとは認められないと主張する(なお、控訴人は、右の場合に、当該行為が違法性を欠くものとも主張するが、事後的にもせよ行為が法に違反するものとされた以上、違法性に欠けるところはないものと解される。)。

確かに、刑訴法三九条三項の「捜査のため必要があるとき」の解釈については、従前から、いわゆる限定説(被疑者が現に取調べ中の場合や、実況見分、検証等の立会いのため捜査官が被疑者の身柄を必要とする場合に限定されるとする。)と非限定説(限定説が挙げる場合に限らず、罪証隠滅の防止を含む捜査全般の観点から捜査に支障がある場合とする。)とが対立し(右事実は当裁判所に顕著である。)、原審証人Aの証言によると、同人は、そのうち非限定説に従い、本件における接見指定権を行使したものであることが認められる。

しかしながら、右については、既に、最高裁判所昭和五三年七月一〇日第一小法廷判決が「捜査機関は、弁護人等から被疑者との接見の申出があったときは、原則として何時でも接見の機会を与えなければならないのであり、現に被疑者を取調中であるとか、実況見分、検証等に立ち会わせる必要がある等捜査の中断による支障が顕著な場合には、弁護人等と協議してできる限り速やかな接見のための日時等を指定し、被疑者が防禦のため弁護人等と打ち合わせることのできるような措置をとるべきである。」とし、限定説に近い判示により被疑者と弁護人等との間における接見交通権を尊重すべきものとしているのであって、その趣旨に鑑みるならば、右判示の解釈を巡りなお両説の間に争いがあった(右事実も当裁判所に顕著である。)ものの、以後、検察官等による実際の指定権の行使にあたっては、右の接見交通権に対する十分な配慮を心掛けるべき義務があったものというべきである。そして、その点から本件をみるならば、前記のとおり違法とされた検察官Aの指定権の行使については、いずれも右の配慮に欠けるところがあったものといわざるをえないから、法律解釈並びに両説の立場からする前記最高裁判所判決の解釈如何にかかわらず、同検察官に過失があったものと認めるのが相当である。

3  検察官Aに対する上司の指導、教育と同検察官の過失との関係については、当裁判所も、右の指導等の存在が、本件において同検察官の過失を認定することを妨げないものと判断するところであって、その理由は、原判決の理由五「2 上司の指導、教育との関係について」(同六六枚目裏九行目から同六七枚目表二行目まで)と同一であるから、これを引用する。

七損害について

原審における被控訴人本人尋問の結果によると、弁護士である被控訴人は、検察官Aの一連の違法な指定権の行使により、被疑者両名に対する弁護人等としての接見交通権を害され、依頼者やその関係者への説明にも窮するなど精神的苦痛を被ったことが認められる。これに、前記判示の接見交通権の重要性を合わせ考慮するならば、被控訴人の右苦痛を慰謝するには六〇万円をもって相当と思料される。

なお、この点について、控訴人は、被控訴人に損害が発生していない旨を種々主張するが、弁護人等にとっての接見交通権の意義を考慮するならば、右のとおり被控訴人に損害を認めるのが妥当である。

八以上によれば、被控訴人の本訴請求を六〇万円及びこれに対する本件不法行為の終了した日である昭和五八年一二月三日から支払済みに至るまで民法所定の年五分割合による遅延損害金の支払の限度において認容し、その余を棄却した原判決は相当であり、本件控訴及び本件附帯控訴はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用及び附帯控訴費用の負担について民訴法九五条、八九条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官楠賢二 裁判官安齋隆 裁判官持本健司)

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